夏の闇にヒメボタル
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あれは浅間大社青年会の頃だったから、かれこれ20年以上前になる。
先輩会員から富士山のホタルのことを聞いた。
富士山登山道近くの林の中でホタルが光っていたという。
環境的に川のあるような場所ではないと言うから、何か陸生のホタルなんだろうと思っていた。
それから数年して「神田川にホタルを飛ばす会」の活動に参加することとなり、市内各所のゲンジボタルの定点観測に励んでいる頃、別の友人から登山道脇の駐車場でホタルを見たという話を聞いた。
これはぜひ見たい。
フラッシュのような瞬間の光、この独特な点滅の主はヒメボタルだった。
気まぐれなこのホタルはいつもその光を見せてくれたわけではない。
多くのホタルが盛んに光っていたと聞いて出かけても、翌日出かけてもほとんど光らないこともあり、かなり振り回されたものだ。
野鳥の会の会員K君の案内で、遊歩道をライトをつけずに一巡したこともある。
目が慣れれば足下の見当もつき、ホタルも確かに見つけやすいが、この時はハズレでわずかなホタルしか見ることが出来なかった。
遊歩道を熟知している彼だからから出来ることだが、素人は真似すべきではない。
やがてこの闇の怖さを思い知らされることとなる。
それからも何年か足繁く通ったものだが、あることから行こうにも行けなくなってしまった。
当時消防団に所属しており、行方不明者の捜索などで出動することはよくあったのだが、管轄区域で家出があり、家出人の車がその遊歩道入り口で発見された。
行方不明者の町内の人たちと何方向かに手分けして分け入りくまなく探していた所、無線機から発見の報が流れた。
駆けつけると指さす彼方の草の上に人影が。
縊死だった。紅い紐に見えたのはブースターケーブルで、木の股にかけられ木を背負うような形でこちらを向いていた。
無線で警察への連絡を依頼し、到着まで現場近くでひたすら待つ。
風向きが変わり風がながれてくると、皆一瞬青ざめる。すでに何日か経過していたので匂いも強烈なものがあった。
後日仲間が調べた所、似たような事例は過去にも何回か起きているらしい。
ライトも点けず歩き回ったあの闇には、浮かばれぬ想いがさまよい歩いていたのかも知れない。
それでもようやく恐怖も薄らいできたので、ときおりヒメボタルを見に行くことがある。
先日静岡新聞に富士山のヒメボタルの記事が載っていた。
標高により出現時期が違うと言うこと。
低地では比較的早い時期に出現するが、標高の高い所では出現時期が遅れる。
生息範囲がどのあたりにまで及ぶものかが、とりあえずの調査のポイントだとか。
昔足繁く通っていたのは梅雨明け頃だったが、盛夏となるともっと標高の高い所が狙い目かも知れない。
怖いもの見たさで行ってみようかとも思うが、さて悩む所だ。
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夏の闇にヒメボタル (admin, 2010-8-2 17:05)